日本住血吸虫の一生/
感染方法/
症状/
診断法/
予防法、治療法/
中国での現状/
もっと知るには?/
参考文献/
日本住血吸虫(Schistosoma japonicum)は、寄生虫の中の吸虫のという吸盤を持ったものの仲間です。日本のほか、中国や東南アジアなどに
生息しており、日本では、山梨県や筑後川の流域などが流行地として知られていましたが、1978年以来新しい患者は出ておらず、もう絶滅したと考えられています。
しかし、中国や東南アジアではいまだ多くの患者がおり、マラリアやフィラリアとともに世界の三大寄生虫病の一つとされています。
この日本住血吸虫という名は、日本での研究が盛ん だったということに由来しています。日本は世界で唯一住血吸虫を撲滅した国であり、診断や治療の技術は高く評価されていて、疫学、寄生虫学の研究実績も多いのです。また、経済的にも余裕があるため、豊富な経験を生かして協力や援助を行うことを望まれているのです。
この寄生虫の成虫は、オスは1.2から2.0センチ、メスは 1.5から3.0センチという大きさの細長い寄生虫で、人間などの寄生する動物(宿主)の小腸から肝臓へ
と向かう, 門脈という血管の中に住んでおり、メスをオスが常に抱きかかえているというのが特徴です。 そしてそこで、宿主の赤血球を食べて生活しています。
住血吸虫の成虫(雄と雌が仲良く?くっついています)
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日本住血吸虫は一生のうち、何度も姿を変えます。
成虫(1)生み出された 虫卵(2)の中でミラシジウムは活発に動き、卵を破って(3)水中に泳ぎだします。(4)ミラシジウムは中間宿主である、長さ5ミリほどのミヤイリガイ(5)という巻き貝の皮膚から侵入し、その体内で成長します。中間宿主とは普通、寄生虫の幼虫を宿す宿主で、この体内で寄生虫は無性生殖を行います。中間宿主がないと、寄生虫は生きていくことができません。
ミヤイリガイに侵入した、ミラシジウムはスポロシストという姿になり、貝の中で2世代を過ごします。2世代目のスポロシストは、セルカリアという姿に成熟します。セルカリアは二つに枝分かれした尾をもつのが特徴です。セルカリアは、貝から水中に出て尾を使って泳ぎ回り(6)、蛋白質を溶かす酵素を使って人などの終宿主の皮膚を溶かしながら体内に侵入します(経皮感染)。終宿主とは普通、寄生虫の成虫を宿す宿主で、この体内で寄生虫は有性生殖を行います。
皮膚から侵入するときに尾を切り捨て、セルカリアは血液に乗って体内を移動します。心臓から肺に行き、それから再び心臓にかえり大循環によって門脈に達した後、そこで成虫になるまですごします。セルカリアが人に侵入してから成虫になるまで、大体40日ほどかかります。
成虫は門脈系の細い血管に行き、そこで産卵を行います。産卵された虫卵は体内の様々なところに運ばれます。腸管内に運ばれたものは、便と一緒に体外に排泄されます。また、肝臓や脳に運ばれるものもあります。
宮入貝(ミヤイリガイ)
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どうすると日本住血吸虫に感染するか?
日本住血吸虫のセルカリアはミヤイリガイの中で成熟すると、水中に出てきます。 その時、人などの動物が水中に入ってくると、セルカリアが皮膚を突き破って体内に侵入します。それによりその動物は感染します。
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腹水(おなかの中の多量の水)がたまった末期患者
日本住血吸虫症で一番恐ろしいのは、この肝臓や脳に対する症状で、悪化すると 宿主の命をも奪ってしまいます。
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診断法
日本住血吸虫症の診断法には主に次の3つの方法があります。
セルカリアのいる水に接触することにより、感染が成立するので汚染された水に 直接触れないことが予防法となります。しかし、漁業や農業をする人は水に直接触れる
ことを避けられないので、予防は大変困難です。
治療法としてはプラジカンテルなどの薬の経口摂取という方法もあります。 しかし、日本住血吸虫症は何度も感染を繰り返し、体内に虫卵が蓄積していくことにより
重症度が増すため、薬剤でその場しのぎの殺虫をしても、根本的な解決とはなりません。
日本住血吸虫症は、ミヤイリガイのいないところでは発生しません。 そのため、日本住血吸虫症を根本的に撲滅するためには、中間宿主であるミヤイリガイの数を
減らす必要があります。 日本では、さまざまな殺貝剤をまいたり、水路をコンクリートに変えてミヤイリガイが 繁殖しにくいような環境にすることによって、撲滅に成功しました。
けれども、汚染地域が比較的限られていた日本と異なり、 外国では汚染地域が広大であり、ミヤイリガイの撲滅は簡単ではありません。
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中国における、日本住血吸虫症対策が行われる前の流行地(a)、と対策が行われ始めた後(1982年)の流行地(b)
1989年に行われた調査によると、中国全土における日本住血吸虫症の患者数は152万人と概算されています。特に多いのは江蘇省、安徽省、湖北省、江西省、湖南省という五つの省での感染者数は、中国全土の感染者のうち、84パーセントを占めています。また、これらの省では感染率も高く、30パーセントから40パーセントに達する地域もあります。これらの地域では、人以外の動物(たとえば牛など)の感染率も大変高くなっています。
今回の対象地域の江西省の広大なポーヤン湖周辺地域の湿地や湖南省・洞庭<どんてぃん>湖沿岸の湿地、 また、揚子江上流の四川省内でも地域差があり、罹患率<りかんりつ>
がかなり改善し10%台のところもあれば依然として高い感染率(再感染率を含む:30%以上)を示す地域も存在します。末期の日本住血吸虫症患者では、多量の腹水を伴った重症な肝硬変に至ることがありますが、この様な重症の患者は他にも多く見られ、治療が必要なことは勿論、再感染の予防、住民の教育(衛生教育)、環境の改善に対する事業の継続が必要であり、日本からの経済的援助ばかりではなく人材支援も重要となっています。
これまでの援助活動の成果で、活動を行ってきた感染地域(江西省、四川省)の感染率は10%以下に改善しつつあります。1998年の診療活動ではこれまでの活動の成果で、大洪水にもかかわらず新華村<しんふあむら>では5-10%にまで改善していました。しかし、1995年、1998年に大洪水が発生し、揚子江流域の広大な地域が水に浸かり、濃厚感染地域の大部分がこれに含まれていたため多くの地域では感染率(再感染率)の増加が起こっています。
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日本住血吸虫のことについてもっと知りたい場合は、こちらをどうぞ。
「悪さしない」ムシたちと一緒になって大実験! カイチュウ博士の役立つ面白メディカルガイド
カイチュウ博士の面白エッセイ
以下の文献を参考にしました。